豚の呼吸器病:マイコプラズマ ハイオニューモニエ、二次病原体と炎症
マイコプラズマ ハイオニューモニエ(Mhp) が一次病原体とされる豚複合呼吸器病(PRDC)は、肥育育成豚治療の半分以上を占めている。2014 年に Holtkamp 博士が実施した調査では、Mhp は肥育舎で最もコストのかかる病原体の1つであると結論づけている。
診断方法、換気・管理システムの設計、新規抗生物質やワクチンの開発が大幅に進歩したにもかかわらず、養豚産業におけるこの病原体の経済的影響は減少していない。そのためか、多くの獣医師や生産者は、豚群にMhpの存在と流行性肺炎(EP)に慣れてしまい、現状のMhp対策戦略改善の可能性とその利点を考えることが少なくなっているのではないか。
Mhpの最も重要な特徴は、PRRSウイルス、豚インフルエンザウイルス、パスツレラ マルトシダ、アクチノバチラス プルロニューモニエを含む他の病原体との負の相乗効果である。これらの複合感染症の重症度は、Mhpが適切にコントロールされていれば大幅に軽減される。
見落とされがちな点の一つは、ほとんどの肺病変と観察される臨床症状が、Mhp自身によるものではなく、Mhpに対する宿主自身の炎症反応によって引き起こされるという事実である。このことはヒトコロナウイルス感染症において、科学的におおきな関心が寄せられている。
免疫病理学的現象は、Mhp感染パターンとそれに伴う肺病変形成の両方において重要な役割を果たしている。
Mhpは肺胞マクロファージやリンパ球を刺激して、肺病変形成に役割を果たす炎症性メディエーターを産生し、リンパ球の過形成を引き起こすことから、病変形成に免疫応答が関与していることが確認されている。(図1)
さらに、Mhpとの相乗効果をもたらす二次病原体の多くも免疫調節作用を示す。このことは、豚の呼吸器病の大半は、疾病の経過過程における炎症によって悪化していることを示唆しており、治療法を選択する上で重要な考慮事項となっている。
獣医学で使用されているマクロライド系抗菌性物質の中には、有益な抗炎症作用や免疫調節作用を有することが研究されている。これらの作用と抗菌活性は、肺炎症状を示す豚の臨床症状を改善させる。アイブロシンの有効成分であるチルバロシンも、炎症を抑制し、炎症の解消を促進することが研究において示されているマクロライド系抗菌性物質の一つである。In-vitroでは、好中球やマクロファージのアポトーシス(有毒な細胞内成分が宿主組織に流入しダメージを増大させるのを防ぐためにプログラムされた細胞死)を誘導することが示されている。また、Mhpを含食した好中球を取り込む、マクロファージのエフェロサイトーシスを促進し、病原体本体を取り除く。そして、炎症の解消に関与する有益なメディエーター(Lipoxin A4とResolvin D1)の放出を誘導しながら、炎症性メディエーター(CXCL-8、IL1α、およびLTB4)の産生を阻害する。
このようなマクロライド系抗菌性物質の抗炎症作用や免疫調節作用は、MIC値からは効果が期待できない病原体と併発した呼吸器疾患の治療にも有効であると考えられている。
抗菌療法とワクチネーションがMhp感染を減少させることがわかっている。しかしながら、ワクチン接種にもかかわらず、Mhpによる呼吸器病は未だに多く確認される。Mhpや PRDC に関与する他の病原体に感染した豚群における異なる治療法やワクチネーションの有効性に関する情報は不十分である。これらに対する答えは、この病気の最適な治療法と対策戦略を開発するために必要である。
Mhpによる肺病変発生を表1に示した。これは、ECO Animal Healthによって実施された様々な研究をまとめたものである。
これらの結果を他の過去のデータと比較すると、屠殺時に検出された肺病変を用いて確認された肺炎発生率は、過去 20~30 年間でほとんど変化していないことが強く示唆される。
これは、長きにわたる養豚産業の多くの進歩を考えると、どのように説明できるのだろうか?
一つにはMhpをコントロールするために実施された対策は、もはやかつてのように認識されていたほど効果的ではなくなったと結論づけることができるのではないか。著者の意見では、マイコプラズマ性肺炎の制御に失敗したことは、現代の養豚業界がMhpに対する課題が増加したことを意味しているのではないだろうか。
これらの重要な要因の中には、以下の項目が挙げられる:
このような大きな変化が産業の進歩に結びついている中で、豚の健康と福祉をさらに向上させるために、Mhpの治療と管理を見直す機会がきたのではないか。
Mhpは非常に特殊な特徴を持つ病原体であり、各農場で最適な対策戦略を設計する際にそれらを考慮しなければならない。
それらとは以下を含む:
これらの特徴は、現代の生産システムにおけるMhp感染症発症に大きな役割を果たしている。
2005年にFano博士らが発表した研究では、離乳時のMhp浸潤率と屠殺時の肺病変の重症度との間に有意な関係があることが証明されている。
この研究とミネソタ大学での他の研究により、2005 年に Pijoan 博士が以下のような声明を発表した:”母豚の免疫状態と排泄状況は、分離離乳システムにおけるマイコプラズマによる感染症の疫学において最も重要な要素である“と。 これは、生産バッチごとにオールイン/オールアウトを実施している一貫生産農場にもあてはまる。
現代の生産システムにおいて未経産更新豚の役割はますます重要になってきており、Mhp 感染状況と排泄、そして個々の免疫状態がますます重要になってきている。課題は、Mhp陰性の更新豚をMhp陽性の農場に導入するということである。導入された更新豚がMhpに暴露され、防御免疫を確実に定着けさせるのと同時に、他の母豚や新生子豚への再感染を防ぐという絶妙なバランスを保つことが本当に難しい課題となっている。Mhpの垂直または水平感染を防ぐ、あるいは最小限に抑えるために、更新豚を馴致することが現代の豚生産システムでは重要である。同様に、マイコプラズマ肺炎の対策戦略は、離乳時の感染率を可能な限り減らすために、垂直伝播の重要性を考慮しなければならない。
肥育前期の段階でMhpの発生率を軽減させるための戦略的な抗生物質の使用は、全体的な健康状態を改善し、感染圧を減少させ、臨床症状発現を防止することにより、Mhp関連疾患の影響を減少させることができる。分娩前にターゲットを絞った選択的な抗生物質投与を行うことで、Mhpの垂直伝播を防ぐことができる可能性が試験で実証されている。出生早期にMhpの発生率を制御することで、肥育期以降の臨床マイコプラズマ肺炎の重症度を低下させることができる。いくつかのマクロライド系抗生物質は摂餌行動に影響を与える喫食性の問題から、抗生物質の選択を慎重に検討することが重要である。興味深いことに、いくつかの後期世代のマクロライド系抗生物質を用いた回腸炎のような腸炎を治療した場合、腸の健康状態が改善されたとともに、生産パラメータが改善されたことが報告されているが、これもMhpに対する効果が関連している可能性がある。回腸炎をコントロール際に、早い段階での治療することにより、不顕性のマイコプラズマ性肺炎に対処でき、より健康で生産的な生活を送れるようになるかもしれない。
臨床現場での経験から、肥育前期の治療は、呼吸器の健康と生産パラメータに大きな影響を与えることが実証されている。Mhpに対して効果的な抗生物質を用い、早期に、短期間で、ターゲットを絞った治療は、垂直感染を防ぎ、初期段階での感染豚の割合を減少させることができる。これは、臨床症状の発現に必要なレベルに達する感染圧を低減することに役立つ。このようにして行う抗生物質療法は経済的にも意味があり、臨床症状が発現した際の抗生物質使用と比較して、総使用量を減らすことが可能である。Mhpに関連する臨床症状および病変を最小化することは、健康および福祉の改善に役立つだけでなく、生産コストへの影響を低減することにもつながる。Mhpに関連する臨床疾患の治療に抗生物質が必要な場合、抗炎症作用と免疫調節作用を持つアイブロシン®(Aivlosin®)のようなマクロライド系抗生物質を選択することで、感染症をより迅速に解決し、豚の健康と生産性をより早く回復させることができる。
訳:横山
(株)エコアニマルヘルスジャパン
アイブロシン®ならびにAivlosin®は英国ECO Animal Health Ltd,.の登録商標